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錯体化学実験施設 分子研リポート2002 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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4-6 錯体化学実験施設

国内評価委員会開催日:平成14年12月9日∼10日 委 員 中村  晃 (阪大,名誉教授)

佐々木陽一 (北大理,教授) 田中 晃二 (分子研,教授) 魚住 泰広 (分子研,教授) オブザーバ 川口 博之 (分子研,助教授)

永田  央 (分子研,助教授)

4-6-1 点検評価国内委員会の報告

(1)現状の問題

相関・錯体化学の領域では新物質の創成が研究をリードしている。新しい発想による新物質の開発は新たな理論,物 性あるいは物質変換を誘発する。相関・錯体の研究グループの規模の大きさから,新物質の創成のためには理論,測 定の研究者との共同研究も極めて重要である。この分野において分子科学研究所が中心的な役割を果たすためには研 究所全体が新物質創成の重要性を認識することが必要不可欠である。一方,全国レベルでの中型測定装置(NMR,E PR,Mass,CD,X線等)の改善により,相関・錯体が利用している装置は国内の主要大学と比べてかなり貧弱になっ てきており,新物質を合成した研究者が,その物性測定を全国の大学の中から共同研究者を捜して依頼する時代にな りつつある。この状況は全国共同利用機関としての分子科学研究所の根幹に関わる問題である。

(2)研究体制及び設備

分子研の中でも特に,錯体化学実験施設での全国の大学との活発な人事交流は同施設の人事選考の妥当性を示して いる。一方,活発すぎる人事異動は施設としての研究の一貫性の欠如をもたらすことも指摘されている。この問題は 現状の相関・錯体の研究規模が小さく,特定の分野で国際的に指導的な役割を担うためには,より大きな研究グルー プを形成させることが必要であることに起因している。新物質の創成を行うためには,人的なサポート体制の確立が 是非とも必要である。ある程度の規模の研究チームを形成するためには,独自の研究を全面的に出し,高い資質を備 える学生の興味を引き起こし大学から分子研へ目を向けさせることが重要であるが,分子科学研究所で行われている 研究が,総研大の学生に大きく依存をする事態となれば,その存在自体が疑問視されかねない。現在,各省庁の研究 所では独自の博士研究員枠を持ち,博士課程を修了した若手研究者が大学に比べて研究設備の整った各省庁の研究所 で目的設定型の研究を行い,研究の大きな推進力となっている。一方,基礎科学センターとしての分子科学研究所に おける博士研究員の数は,極めて少ない数に限られている。若手博士研究員が国立の研究機関で活躍する機会が増大 することは,日本の学問の向上から喜ばしいかぎりであるが,21世紀を見据えた基礎科学の発展からは文部科学省の 研究所こそ,十分な人的サポートが与えられるべきであり,次代の日本を背負う研究者は文部科学省が中心になり育 てるべきであると思われる。

4-6-2 国内委員の意見書

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 委員A 化学の現状と錯体化学分野の役割

当評価委員の感じている最近の進歩として巨大分子に関する精密な情報が容易に得られるようになった事が挙げら

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れる。この一例として錯体化学分野から見ると空中窒素を固定する巨大タンパク質の中で複雑な化学構造を持つ鉄モ リブデン蛋白の構造解析が代表的と言える。この蛋白中の活性部位には独特の金属クラスターが存在していることは 約10年前にX線解析によって見い出されたが,最近の研究によると鉄モリブデンクラスターの中心にこれまで「存在 しないとされていた窒素原子」があってそのため従来三配位とされてきた三個の鉄イオンは全て四配位であることが 判明したのである。また,このクラスターの近くに存在する P クラスター(8F e 構造)の立体構造も興味深く訂正され ている。これらの発見は精密な構造決定が巨大分子では特に必要であることを示している。

一方,日本の化学界では三年連続のノーベル賞によって国際的なレベルの高さがマスコミにも良く認められたがそ の内容は15∼20年前に独特の「ものずくり」に成功したものであり現在の若い研究者の状態を見ると,単なる楽観は 出来ない。つまり中国を中心とするアジア諸国での急激な追い上げによってこのような日本の優勢が覆される恐れが あるからである。

海外では一般に無機化学研究は大きな領域を占めて居り,錯体や生物無機のほか有機金属も包含して多くの若い研 究者が活躍している。我が国では有機化学の研究人口が大きく,中でも天然物や高分子の合成は研究が盛んであり従 来有機化学の分野が拡がっていた。然し,最近では触媒として数多くの金属錯体が用いられこれまでにない高い活性 と選択性が実現されており,とくにオレフィン重合のために世界中で新しい錯体触媒が合成され,同時に錯体反応の 基礎研究も盛んになってきている。また,電磁機能をめざした錯体合成も多種類の元素を用いる巨大な共役分子の設 計と合成がトレンドになっている。このように化学サイドからの「積み上げによるナノサイズ分子の合成」は,錯体 の持つ特性を利用できるので他の方法より有利であり,この点分子研でのナノセンターの設立はすでにその傾向を素 早く取り入れている。結局,物性研究の対象として各種の錯体が用いられる傾向は益々急となり,「共役系を持つ錯体」 の重要性は大きく,この領域の研究は今後も世界的なスケールで継続するものと思われる。

分子研への提言

国立研として国家的な緊急の課題に有能な人材を集め効率良く先端研究を行う必要があり,先進国としてこの点責 務がある。これまで海外ではドイツの MPI やフランスの C NR S などがこのような研究を行ってきたが E U の確立によ り以前ほどの責任がなくなって来ている。また,アメリカでは各州が州立大学を拡充して研究活動を高めている。中 国などアジア諸国でも産業育成のため基礎研究にも力を入れつつあって日本としてこれらの中心としての立場を守ら ねばならない。然し,この10年の経済低迷により企業での研究が低調となり大学などでも産学協同が国是となる一方, 独法化により研究の重点化・効率化が進行している。各地に新たな研究センターを作る動きもあり岡崎機構に従来の ような占有を許さない状況にある。実際,大型機器利用として全国的に共同研究を行ってきた体制に問題が出て来て いる。従って,更に大型の器機を導入してこれまでの路線を強める方策が考えられる。具体的には 950 MHzNMR があ げられる。また,このようなハード面でなくソフト面(例えば化学合成法など)で全国の中心となる案もあるが,こ れには技術セミナーなどをくり返すような方策が考えられる。

私案を示すと日本でも技術の伝承が難しくなりつつある現在,化学での先端技術(特に測定機器,合成法)をまと め,共同した新たな中心として将来に伸びる組織を作ることを提案したい。分子研の現状の化学合成法のすばらしさ を見るとこの方向にもっと進んで行く事が良いと思われる。 

日本の先端技術はいろいろな政府支援の研究(戦略研究など)によってこの五年ほどでかなり蓄積しているが,大 学などに分散しているのでこのままでは報告は残るが実際の実験装置などは消える心配がある。また,化合物のライ ブラリーを残すことも「ものずくり」のためには必要である。

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個別評価 田中グループ

炭酸ガス還元の錯体触媒開発のため以前から行って来た R u 錯体の研究は C R E S T の支援もあり最近急激に発展して いる。大きな環状共役系アニオン性キレート配位子(ジアルキルカテコラト)を用いた場合,R u 上の酸素配位子が配 位子間の共役によって安定化して,ラジカル配位子として存在することなど酸化還元触媒作用に重要な新しい事実を 見い出している。現在良いグループが出来ていて今後の研究が大いに期待できる。

川口グループ

ようやく適正サイズのグループが出来て,得意とする前周期遷移金属の新型錯体を大量に合成する状態に成長して いる。特にアニオン性三座配位子となる嵩高いトリフェノキシ錯体について低原子価 Nb の独特の作用による「小分子 活性化」を見い出している。また,硫黄が配位した新しい C o クラスターなども合成していて広い錯体の領域に進出し ようとしている。錯体の触媒作用と関連の深い新しい構造や結合が見つかることを期待できる。

魚住グループ

環境を汚さない合成反応として水中で選択性良く作用するポリマーサポートPd錯体を巧みに合成し数多くの有機合 成に応用し,すばらしい成果を得ている。錯体の機能を充分に引き出した所が実に鮮やかである。すでに,この方面 では国際的にも有名になっており報告も多い。また,各方面より資金を集めており盛んに若い研究者を採用して急速 におおきなグループへと成長しているのは注目に値する。

永田グループ

生化学での重要な機能を示すポルフィリン錯体の光反応を利用して,触媒的光酸化反応を開発している。これには 生化学的な反応から進んでさらに新しい機能を見い出す大きな目的が込められている。光りの作用で生じる三重項ラ ジカルを中間体とする機構はやはり拡がった共役系の存在によるもので,今後いろいろな方面に適用できると思われ る。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 委員B 全般的な問題:

分子科学研究所の錯体化学実験施設は,少なくとも我が国の錯体化学者には錯体化学研究所設立へ向けての第一ス テップと位置付けられ,その実現に向けて同施設を中心として大きな努力が続けられてきた。その目標の達成が厳し くなった今,錯体化学実験施設はその存在意義をどう位置付けるか,きっちりした認識を持つ必要があろう。その意 味で,今錯体化学実験施設は大きな曲り角にあると認識する。このような歴史を背負った錯体化学実験施設のこれま でのあり方には,様々の評価があろう。しかし,ここで過去の評価を議論するのはあまり建設的ではない。建物の移 転も含めたこれからの数年の錯体化学実験施設のあり方が,錯体化学実験施設を巡る2つの重要な視点,すなわち,分 子科学研究所内での錯体化学実験施設の位置付け,錯体化学会と錯体化学実験施設との関係をポジティブな方向に進 めてゆくために極めて重要になってくると思われる。錯体化学実験施設は,新設の分子スケールナノサイエンスセン ターへ定員を割く形と,みかけ上,その規模が縮小される状態となった。しかし,分子スケールナノサイエンスセン ターにおける研究課題の重要部分には錯体化学が深く関与するはずであり,錯体化学実験施設の発展的な改編の姿と

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いう観点から前向きに捉えておくべきであろう。この意味で,錯体化学実験施設は今後とも,分子スケールナノサイ エンスセンターとの密接な連繋のもとに研究を進めてゆくべきであろう。

各研究者の研究評価:

田中教授のグループは,独自の高い目標を見据えたエネルギー変換系の確立に向けた研究を進めており,その独創 性と研究の進展ぶりは極めて高く評価出来る。今の研究体制は,目標達成へ向けての高いレベルの研究展開を期待さ せるに十分である。しかし,研究体制が人的支援の面で整った点には,つい最近の田中教授の努力による外部資金の 獲得の効果が大きい。文部科学省直轄研究所のあり方,分子研全体の方針等外からの研究支援体制,田中教授自身の 研究支援者の確保への努力とその限界等,この研究組織が整う前までのこのグループの歩みには,研究体制確立の上 で考えさせられる点が多かった。川口助教授のグループの短期間での合成展開には感心させられた。今は,新化合物 開発を大展開中のように見受けられるが,今後はその機能性や物理化学的な性質などその付加価値を高める方向にも 研究を展開してほしい。

魚住教授のグループも外的資金に支えられた高いレベルの研究を順調に進めていると見受けられた。短期間に研究 体制を整えて,順調に研究を進めている点は高く評価出来る。錯体触媒を用いた有機合成には大きな将来性が感じら れる。魚住教授の研究領域は,錯体化学会会員の中にはあまり馴染みでないと感ずる人も多いであろう。しかし,錯 体化学の広がりに大きく寄与出来る分野であることは確かであり,錯体化学会全体からの支援が得られるような努力 をされるように期待したい。永田助教授のグループの光エネルギー変換系の研究は,世界的に競争の激しい分野であ る。この領域はアイデアと合成の力の勝負である。現在ブレークスルーに向けて奮闘中と見受けられたが,永田グルー プからの画期的な成果の世界へ向けての発信に期待したい。

人事のあり方: 

錯体化学実験施設の教官の全国の大学との人事交流は極めて活発で,分子研全体でも際立っていると聞く。これに は,人事委員会に外部から専門領域の研究者が参加していることの効果が大きいと思われる。錯体化学実験施設のこ のような人事委員会の構成は今後も維持してゆくべきである。加えて,分子研内だけでは近い研究領域の研究者が限 られている分子スケールナノサイエンスセンターの人事にもこの制度を適用してゆくことが強く望まれる。

錯体化学実験施設と,分子科学研究所の物理化学研究グループとの関係について: 

今,物理化学の発展は,かなり複雑な物質系への展開を可能とし,およそ手に入る物質ならどんなものでも研究対 象として取り上げられるようになってきた。逆にいうと取り上げる物質自体の選択が,物理化学研究の価値につなが る時代と言えよう。したがって,物理化学と合成化学はタイアップして研究を進めることが,レベルの高い研究を進 めるのに,欠かせないアプローチとなってきている。分子科学研究所は,所内に合成を主体とした研究グループを持っ ているということで,そのメリットは極めて大きい。しかし,錯体化学実験施設,および分子スケールナノサイエン スセンターの錯体関係グループの研究からは,そのような積極的な共同研究体制は確立しているようにはみえなかっ たし,今後とも積極的に共同研究を推進するという方針は感じられなかった。物理化学者の要請に応えるという形で の共同研究を期待しているのではなく,分子科学者の現在の視点を理解し,これを将来的に先取りするような努力が 期待される。自ら開発した物質の物理化学的な意義を主張し,売り込むような努力が物理化学的立場からみても新し

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い画期的な領域の開発につながるような気がしてならない。分子研の中での存在意義を一層高めるためにもそのよう な努力をされることを期待したい。

その他の問題:

流動部門の制度は,全国の錯体化学者と錯体施設とを結び付ける重要な役割を果たしてきたと思われる。学生の出 入りなどもこの制度を通してある程度活発であり,対外的な影響力を持つ効果も無視出来なかった。この制度が停止 したことはその意味で残念であるが,全国の大学の現状からみると,無理がかかっていた点は否定出来ず,やむを得 ない処置であろう。しかし,その分だけ施設の専任教官の全国の大学等に向けての積極的な働きかけが重要となって きたことも事実である。錯体化学実験施設運営委員会は,最近ほとんど開催されていないと聞く。運営委員会は,実 際的な錯体化学実験施設の運営に関する事柄の審議の他にも,錯体化学者の声を分子研側に伝える重要な役割も果た せるはずである。運営委員会の前向きな活用を期待したい。影響力が薄まったとは言っても,錯体化学実験施設は依 然として全国の錯体化学者に対しては独特の存在感がある。この存在感を生かした毎年ないしは隔年の定期的な国際 シンポジウムを定着させるのはどうだろうか? 岡崎コンファレンスは,毎回テーマを変えた形で行われるが,これ とは別に錯体化学を主体としたシンポジウムを設け,定期的に全国の錯体化学者を海外からの招待者とともに集める ようにし,研究動向を先取りしたようなテーマ設定をすることにより,錯体化学者に対する一つの大きな求心力とし て育って来よう。このような定期的シンポジウムは大学では実現が難しく,分子研のような研究所が主体となって実 現してほしい。

参照

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